「デブ期」は自立のチャンス
男性と女性の大きな違いは、太りやすさ、やせやすさだろう。
学生が風邪をひいて3日間寝込むとする。男性はげっそりやせてしまうが、
女性はたいてい太ってしまう。「発熱で何も食べられませんでした」と言って
いても、である。練習が休みだった翌日ともなると、女性は簡単に1㌔、1.5㌔は
体重が増えている。
アスリートが真剣にスポーツに取り組み始める年齢は18歳から20歳くらい。
この時期の男性はいくら食べても太らない「ヤセ期」。
男性ホルモンの分泌が高まり、筋肉質で疲れを知らない強靭な身体を作る最適な
時期といえる。しかし、残念ながらこの時期の女性は、人生最大の「デブ期」
を迎える。息をしているだけでも太る、と言っても過言ではない。
女性にとってこの時期はさなぎから蝶(ちょう)へと変身するかのように、女性
ホルモンの分泌が高まり、女子から女性へと成長する大切な時期だからだ。
では、「デブ期」の女性アスリートは一体どうしたら良いのか。
食べるのを我慢する? それは不正解。女子の駅伝強豪校や実業団チームの中
には、選手に1日に何回も監督の前で体重を量らせ、少しでも体重がオーバーし
ていたら食事を与えなかったり、体重が減るまでサウナスーツを着させて自転車
をこがせたりするという、原始的な指導法がいまだに存在するらしい。
だが、他人の前で体重を量らせるのは紛れもないセクハラ行為。また女性の
「食べ物のうらみ」ほど恐ろしいものはない。食べることを我慢した反動で、リ
バウンドするのが関の山だ。
正解は、指導者もアスリートも「デブ期を受け入れる」ことだ。特に女性アス
リート自身が、自分の運動量と食事量を把握し、毎日こまめに調整することが重
要となる。
私も自分が太りやすいと感じた大学1、2年生のころは、練習量が少ない日は
ごはんをおかゆにしたり、野菜中心のおかずにしたりと、かなり気を使って過ご
していた。逆にたくさん練習した時には、肉や魚をしっかり食べるようにしてい
た。今思えば、この「デブ期」の経験は、自分の身体への理解が高まり、自己管
理能力の向上に役立ったと思う。
女性アスリートのコーチングは、「管理する」のではなく、「自立させる」
ことが大切であり、女性の「デブ期」は自立を促す絶好のチャンスだと捉えて
ほしい。
コラム「ママは監督」2013年11月5日 毎日新聞 夕刊掲載分