「やる気」導く人、育成を
指導者(コーチ)の語源は、四輪馬車のコーチに由来し、19世紀ごろに指導者の
ことを目的地に運ぶ馬車になぞらえてコーチと呼ぶようになったといわれている。
つまり、指導者(コーチ)は選手が目標とする結果へと導いてくれる人である。
どんなスポーツでも強いチームの指導者は「厳しい」というのが常である。
楽天の星野仙一監督のごとく、厳しさは愛であり、いわゆる叱咤激励をストレートに
選手の心に伝えられる人こそが、本物の指導者なのだろう。
しかし、人の心を動かすほどの引き出しがない指導者は、選手に対し「厳しさ」を
「怖さ」でごまかし、力ずくの指導をしてしまいがちである。
選手にとって、このトレーニングをしなければ指導者から「言葉でなじられる」
「怒られる」「殴られる」とおびえながら、嫌々仕方なくするトレーニングほど
無意味なものはない。指導者が結果的にそのトレーニングを消化させたとしても、
選手自身に満足感やスポーツの楽しさを与えることはできない。
無能な指導者の特徴はふたつ。
ひとつは、指導者は怖くなければいけないと勘違いして、笑顔をなくし、
威厳があるように見せかけ、近寄り難い指導者を演じている人だ。本当の自分を
偽り、無駄な演技をやっている指導者は意外と多い。
もうひとつは、結果が出せないと「気持ちの問題」「気合いが入っていない」
「やる気を見せろ」と選手に言い放つ人。スポーツの世界では、精神的な強さ
(メンタルタフネス)は非常に重要であるが、選手のやる気を引き出すことこそが、
指導者の最も大切な役目である、ということを理解していない証拠である。
恐らく、大阪・桜宮高校事件に代表される昨今の「体罰問題」の加害者(指導者)は、
こうだったのではないかと想像できる。そして、このような指導者が、いまだに
教育やスポーツ現場に多く存在する理由は、戦時中に体罰を用いて兵士を鍛えていた
手法が持ち込まれたためだと言われている。
残念ながら、日本のスポーツ指導者の育成(コーチ養成)は進んでいるとはいえない。
2020年オリンピック・パラリンピックの東京開催が決まり、スポーツの価値が見直さ
れてきた今こそ科学的知識を駆使して合理的なトレーニングを選手に提供し、選手の
心を励まし、奮い立たせることができる指導者の育成にも力を注いでほしい。
コラム「ママは監督」2013年10月1日 毎日新聞 夕刊掲載分