人生と競技 女性も共存を
カナダが推奨する全ての人を対象とした「長期的なアスリートの開発モデル」
の特長は、性差を考慮して男性と女性でモデルの年齢や内容を変化させて
いるところだ。
女性は男性よりも心身ともに1年早く成長するため8歳までに基本動作の習得を
終え、11歳までに練習の意味を理解し、15歳までに練習に耐えられる心身が
できあがる。だから15歳から競技スポーツのエリートへのシフト可能となるのだ。
しかし、その過程において女性特有の心身の変化に対するサポートを付加しな
ければならない。これを怠ると、男性よりも早くスポーツから離れてしまい、
優秀なアスリートを失ってしまうことになるからだ。その方策として女性は
コミュニケーション能力やコミュニティー形成能力が高いという特徴を利用した
サポートを展開する。
例えば、幼少期の男の子は「スポーツができると友人ができる」と考えるのに対し、
女の子は「グループになって調和を保つと認められる」と思うため、突出する
ことを好まない。そこで、女の子のスポーツ参加者を増やし、コーチや親など
周囲がスポーツ活動を期待していること、自分が受け入れられていることを実感
させる。また、いろんな立場でスポーツと関わる女性のロールモデルを提示する
ことも継続に有効なのだそうだ。
日本の女性アスリートは引退が早く、私の場合も26歳だった。
理由は、オリンピックに出場するのは難しい、と判断したからだった。
スポーツの価値や目的はオリンピックだけであり、「今」しか見えていなかった
あのころを後悔している。
女性アスリートが最も力を発揮できるのは、月経周期が安定して体重の管理も容易に
なり、さまざまな経験が競技に活かされる26歳以降である。しかし、この時期は自分
の競技の将来性、結婚や出産、競技生活を終えた後の人生について深く考えはじめる
時期でもある。
日本では、スポーツと人生が別々の座標で展開されているため、早い段階で2つの座標の
バランスを保つことに疲れてしまうのではないか。カナダのように、人生にスポーツが
根付いていれば、ライフスタイルの変化に合わせてスポーツの位置を移動させながら共存
できる。そして、全ての女性が一生涯スポーツに携わることで、次の世代を担う子供たち
の人生にも、スポーツが欠かせないものになるに違いない。
コラム「ママは監督」2014年3月18日 毎日新聞 夕刊掲載分