駅伝は最高のトレーニング
私は駅伝が大好きだ。
選手にとって、公道を堂々と走れる駅伝は気持ちがいい。ここが何キロ地点な
のか、どのくらいのペースで走っているのかなんて、正確にわからないくらいの
方が思い切って走れるし、自分の前方を走るランナーが見えてきたらピッチも
自然に上がる。思いがけない自分の能力を引き出すチャンスがたくさんある。
「ヨーイ、ドン」でスタートする1区以外はどんな戦況から始まるか分からない
出たとこ勝負。自分の余力と相手の余力、残りの距離やコースの形状を考慮し
ながら打って出る勝負の駆け引きこそ長距離ランナーに必要な「考える力」を
養成するのにうってつけだ。
指導者にとっても、駅伝の采配は選手の心・技・体を見極める能力が磨かれる。
コースも距離も違うところに、複数のランナーを組み合わせて形をつくる作業は、
一筋縄ではいかない。
私は大学の恩師から「三つの極意」を学んだ。一つ目は「エースの育成」だ。
駅伝は攻めと守り。エースがいなければチームは締まらない。二つ目は選手の
ランニングの特性と性格をよく理解し、「適材適所」に配置するということ。
1区は「度胸」、2区は「起動力」、中間区間はその場の空気を読める「頭脳派」、
アンカーは「安定感」を求めている。
三つ目は「新人とリベンジ力を利用する」ことだ。新人の初々しい緊張感と、
新人にレギュラーの座を奪われるかも知れないという緊張感は、どちらもチーム
の集中力を高めてくれる。また、前回失敗したランナーは汚名返上に燃え、
プラスの力を発揮してくれるだろう。選手を信じるという、コーチングの基本が
ここにある。
テレビ観戦する側にすれば、上り坂、下り坂、向かい風など、持ちタイム通り
にはいかないレース展開に目が離せなくなる。ランナーの生い立ちや苦労話を聞け
ば感情移入しやすく、知らないランナーやチームでも不思議と応援したくなる。
観戦の後は思わずランニングに出かけたくなってしまう人も多いはず。
駅伝は国民の運動不足解消にも一役買っている。
寒い冬に汗でにじんだタスキをつなぐ駅伝には、選手と指導者を育て、観戦者
の心をつかむエッセンスがたくさん詰まっている。駅伝は長距離ランナーの最終
目標ではないが、日本が生んだ最高の長距離走トレーニング。
これからも日本特有の駅伝で鍛えられたランナーが、世界で活躍することを
願っている。
コラム「ママは監督」2013年12月17日 毎日新聞 夕刊掲載分