金・銀・銅の前に鉄!
女性アスリートが最も注意すべき内科的疾患は運動性貧血だ。
「減量による身体的ストレス」、「機械的衝撃による赤血球の破壊(溶血)」、
「筋肉損傷による鉄喪失」、「筋肉肥大による鉄需要の増大」という主な
原因に加え、月経血による鉄の損失も侮れない。
運動性貧血でやっかいなのは、気付いたときには遅いということ。
肝臓の中に蓄えられている「貯蔵鉄」が底をつき、赤血球に鉄を補充できなく
なって初めて自覚症状が表れる。
夏にたくさん練習をしたランナーが駅伝シーズンに入り、「なんか息があがるな」
と思って血液検査をしたら貧血だった、というのはよくある話。
アスリートの努力が水の泡にならないように、定期的な血液検査はコーチの
義務である。
運動性貧血を治すためには、3か月くらいは鉄剤を飲み続けなければならない。
しかし、スポーツ界では運動性貧血を早く治したいがために、アスリートに鉄剤を
静脈注射するという、危険な治療をしていた無知な指導者もいたという。
もちろん今では、ドクターの指示による正当な治療以外でアスリートに鉄剤を注射
することは、ドーピング(禁止薬物使用)と見なされる。
厚生労働省が実施した2011年の国民健康・栄養調査では、日本人女性の鉄の
平均摂取量は1日7.3mgで、10度版で推奨されている鉄の摂取量(10.5mg)には
遠く及ばない。さらに驚くべきは、米国の成人女性に推奨される鉄の食事摂取量は
1日18mgだということ。日本をはるかに上回る量を推奨できるのには秘密がある。
米国では、多くの人が一般的に摂取している食品に、不足しがちな栄養価を強化
しているのだ。例えば、パンとシリアルにはビタミンB群と鉄が強化され、
ミルクはビタミンDで栄養価が高められている。これは、国策として国が定めた
ルールなのだ。このような鉄の摂取不足を改善するための国家的な取組みを
している国は50カ国を超える。日本がいかに遅れているかがよくわかる。
私は貧血になったことは一度もない。
「実家が焼肉屋だから毎日焼肉を食べていたのだろう?」と言われるが、
間違いではない。高校時代は食卓には鶏レバーや小松菜やモロヘイヤなどの
おひたしが並んでいた。日本のアスリートは、国のサポートが無い以上、
常に貧血予防を意識した食事を心がけるほかない。
金・銀・銅の輝くメダルを取るために、まずは鉄を取ろう!
コラム「ママは監督」2013年12月3日 毎日新聞 夕刊掲載分