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結婚したら引退すべきか

 

「体力の限界。気力も無くなり、引退することになりました。」。
1991年、大好きだった千代の富士の引退理由は、完全燃焼したトップアスリーの
最高の引き際だった。
アスリートが引退する理由はさまざまだが、男性アスリートが「結婚」を理由に
引退することは絶対にない。
しかし、女性のトップアスリートが引退するときは、たいていマスコミから
「結婚ですか?」と質問される。また本当にその場合も多い。

 

なぜ、女性アスリートは結婚したら競技を辞めるのか?

 

私の仮説は2つある。
1つは、中学校や高校(大学もあるらしい)の部活で、「男女交際禁止」という
規則があることだ。同じ部活でも、男子はよいが女子は禁止する、というところも
あるそうだ。女子が恋愛すると、恋にのめり込んで競技に集中できなくなる、
と考えられている。男女交際は女性アスリートの競技力を低下させる、という考えを
すり込まれていては、結婚して競技を継続しよう、という気持ちにはなれないだろう。

 

2つめは、所属先の問題だ。プロスポーツで活動している選手はよいが、
アマチュアスポーツの場合は企業に所属する実業団選手である。企業としては、
通常業務の一環としてスポーツ活動の時間を提供しているのに、結婚(恋愛)する
とは何事だ!という発想があるのではないか。
また、実業団チームは何事も「集団」で動くため、結婚したから寮を出る、といった
別行動は取りづらい。
実際に私も実業団チームに所属していたときには、「結婚は競技を引退してから」
と考えていた。所属先に聞いたわけではないが、暗黙の了解として、結婚が許される
ような雰囲気では無かった。一般企業の寿退社的な発想は、いまだにスポーツ界に
はびこっている。

 

外国には、既婚の女性アスリートがたくさんいる。もちろん、恋愛をしている
アスリートも。
その選手たちに勝てない日本スポーツ界の現状をどう説明すればいいのだろう。
女性アスリートにとって、恋人や家族は「逃げ道」ではなく「心の支え」だと理解
してもらえないのは、スポーツにストイックさを求めすぎる日本の特徴かもしれない。

 

「将来的にはいい旦那さんに巡り合って、将来的には子供が欲しい」。
ソチ五輪後の引退を示唆した浅田真央選手のコメントは、引退しなければ結婚も
出産もできない、という考え方の裏返し。
「結婚」が、日本の女性アスリートの引退の理由にならない日はまだ遠い。

 

 

コラム「ママは監督」2013年5月7日 毎日新聞 夕刊掲載分

 

2013-05-07
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