ニックネームで呼ぼう
新入社員や新入生ら、新しい出会いが増える4月。
私は女子の陸上部の新入部員が自己紹介する際に「呼んでほしいニックネーム」を
聞くようにしている。
スポーツ現場では、運動中にゲキを飛ばすことが多い。そのときに「◯◯さん」と
呼ぶのではよそよそしい。かといって名字(姓)を呼び捨てにするのは、上から目線に
感じられ、相手に威圧感を与えてしまうからだ。
はじめは呼ぶ方も呼ばれる方も恥ずかしいが、ニックネームを使った方が親近感が湧くし、
たとえ叱るときであってもトゲがなくなる。
ちなみに私は、大学では意識的に学生達に敬語を使って話しかけるようにしている。
すると、不思議と学生達の返答も丁寧になる。「しゃべるなー」というより、
「話しをやめてください」と言った方が静かになる。人は相手の言葉遣いに対応する
ということがよくわかる。
話をスポーツに戻すと、個人競技の男性指導者の多くは、男子選手も女子選手も名字を
呼び捨てにすることが多い。
「どうして?」と本学の男性コーチに聞くと、「ニックネームで呼ぶのは恥ずかしい。
特に女はひいきしていると思われるので、全員平等になるよう名字で呼ぶようにしている」
とのこと。なるほど、それなりに気を遣っているということだ。
チーム競技とりわけ女子バレーボールや女子バスケットボールにおいては、古くから
コートネームと呼ばれるニックネームで選手を呼ぶ習慣がある。ゲーム中、監督や
チームメートがスピーディーに指示をするためだと思われるが、男子選手にそれは
ないらしい。ということは、ニックネームは男同士よりも男性監督と女子選手間における
コミュニケーションツールになっているのかも知れない。
そういえば、子どもがいる夫婦は、妻から「お父さん」、夫から「お母さん」と
呼ばれるよりは、ニックネームで呼ばれた方が嬉しいものだ。
女子サッカー、なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、選手をニックネームで呼ぶ
どころか、自分自身が選手たちから「ノリオ」「ノリさん」というニックネームで
呼ばれている。監督と選手の関係が、決して主従関係や上下関係ではないことの
あらわれであろう。
ニックネームを使っても、選手と監督の信頼関係が損なわれることはない。
女子柔道界も、まずは「ニックネーム作戦」で指導者と選手の距離を縮めてみては
どうだろう。
コラム「ママは監督」2013年4月23日 毎日新聞 夕刊掲載