「二足のわらじ」普通の社会に
朝4時、愛猫にごはんをせかされ起床。物音をたてないように子供の朝食、保育園の準備
等の家事をして、6時すぎに家を出る。勤務先の大学まで車で20分。女子の監督を務める
陸上部の練習のこと、大学でやることを頭に叩き込みながらグランドに向かう。
6時45分に「じゅんだーい、ファイト!」のエールを聞いて私は監督になる。
朝の透き通った空気を切り裂いて走る学生たちを見るのは、私の最高の時間だ。
朝練習を終えると、8時に研究室に上がり、9時までにメールチェックをして仕事にとり
かかる。
「大学の教員って、一体なにをやってるの?」とよく聞かれるが、授業、研究、会議、
有力な高校生のリクルートや学生の就職支援など、はっきり言って何でもやる。
午後4時10分に授業が終わり、本練習が始まる。勝つために必要な時間、集中力が高まる。
でもタイムリミットは5時半で、クールダウンまでは見届けられない。「じゃ、お疲れ!」
と駐車場までダッシュし、保育園にお迎えだ。
ハンドルを握りながら、今日の晩ごはんは何作ろう?明日のパンあったっけ?
私がママになる瞬間だ。
ここから寝るまではノンストップ。ごはんを作って食べさせて、お風呂に入ったら、
9時には子供と一緒におやすみなさい。
産休や育休は国が定めた期間しか取らなかった。
だって、休んだら練習が見られない、高校生を勧誘できない、家のローンだって返済
できない、ないない尽くしでいいことなんて一つもない。
それより、子供が病気で、と突然休んでもいい制度を作ってほしい。
子供が産まれる前の方が大変だった。夕方の練習が終わったら研究室でもう一仕事
して、9時頃に帰宅、0時過ぎに就寝していた。今は「終われない仕事」から解放され、
仕事効率は格段に上がった。
はじめは、子育てをしながら監督業ができるのか、とても不安だった。
でも、旦那と周りの人の力を借りまくり、天性の厚かましさでここまでやっている。
女性の社会進出が当たり前の時代。
しかし、日本のスポーツ界では女性監督は非常に少ない。
「女性も監督になれるんですか?」
ある女性オリンピアンに聞かれたことがある。
海外では、女性監督の契約にチャイルドケアを盛り込むのが当たり前となっている。
日本のオリンピック招致活動と同時に女性監督の招致も進めてほしい。
コラム「ママは監督」2013年4月2日 毎日新聞 夕刊掲載